巷はあげて自由と平等が叫ばれている文明開花の世の中であった。しかし因習と偏見は、なお多くの人の心をとらえて放さなかった。水清い千曲川のほとり、ここ飯山町に、夢多い青春を何故か悲しみ、ひと知れず秘密をいだいて陰多い日を送る一青年がいた。彼の名は瀬川丑松、当年二十四歳、新しい教育理念に目覚めて教ベンをとる身であった。だがその秘密--それは彼が「部落」の出であるという事であった。同僚の土屋銀之助は師範時代からの心を許し合った友で当時の階級差別感を説く部落出の論客猪子蓮太郎に心酔している一青年であったが、その友に
解説 「二十四の瞳(1954)」の木下恵介が「美わしき歳月」の松山善三と共同脚色し、木下恵介が監督、「ママ横をむいてて」の楠田浩之が撮影を担当する。主なる出演者は「「春情鳩の街」より 渡り鳥いつ帰る」の高峰秀子、「花嫁はどこにいる」の佐田啓二、「修禅寺物語」の高橋貞二、「東京-香港 蜜月旅行」の中川弘子、「美わしき歳月」の小林トシ子、そのほか田村高廣、石浜朗など。なおこれは「初恋」を改題したもの。 あらすじ 林野庁に勤める石津圭三は、北海道転勤のため、休暇をもらって東京から故
木下監督は、鶴屋南北の原作にかなり手を加え、お岩の亡霊は伊右衛門の良心の呵責による妄想だという新解釈を与えている。また、この作品を日本の伝統的な絵巻物という視点で捉え、全編を俯瞰撮影の長回しで撮った異色作品。
北九州の一隅、呼子港の遠洋漁業組合長、神谷太郎衛は、組合の赤字の原因が、持船第一肥前丸と第二肥前丸の船長、唐澤源六と石黒軍造の不正にあるとにらんで、二人を馘にした。折よく戦時中船舶兵としてこの土地にいた魚住省吾が訪ねて来て後任船長を世話する約束をした。省吾の紹介の新船長矢吹毅と渡の兄弟の指揮で久しぶりに第一、第二肥前丸は出航、大漁であったが市価の暴落で組合の頽勢を挽回することは出来なかった。その上唐澤と石黒は色々な妨害をしかけて来た。更に太郎衛の持船が減船令にひっかかり、彼はそのため陳情に上京、幸い願いは
昭和二十年八月七日、長崎医大放射線科の医師、永井隆は日増しに激しさを増す空襲に、十歳の息子・誠一と五歳の娘・茅乃を、妻・緑の母・ツモの居る木場に疎開させた。その夜、緑は診察のため長い放射線をあび、自ら命を縮めようとしている隆に休息するよう懇願するが、彼は患者が増えているからと聞き入れない。八月九日、午前十一時二分。川で泳いでいた誠一は、浦上の方で空がピカッと光るのを見た。そして突風が津波のように押しよせてきた。街の方で何かあったのかもしれないと様子を見に出かけたツモは、日が暮れてから漸く緑の骨を缶に拾って
木下監督は、鶴屋南北の原作にかなり手を加え、お岩の亡霊は伊右衛門の良心の呵責による妄想だという新解釈を与えている。また、この作品を日本の伝統的な絵巻物という視点で捉え、全編を俯瞰撮影の長回しで撮った異色作品。